back

menu

next

 

 真冬のたっぷりとした暗い冷気が街を覆い尽くしている。凍えた夜気に満ち
果て、今にも押し潰されそうな寒々しいガレージがこっそりと、だが、優しく
行く宛てのないウィルを迎え入れてくれた。するすると慣れた手並みで空いた
一角へと車を差し入れる。不本意とは言え、それでも、しばらく居座る場所が
定まれば、一息吐くことは出来る。何となくのことだが、当座はここにいても
構わない。そう思うと、安堵も出来た。
小心者だな、オレ。
そう思う。
でも、いる場所があるっていうのはいいことだ。ないよりはずっといい。
 そして、持て余すほどの時間がある時、人にはそれぞれ思うところがある。
昔、しでかした失敗。今更、考えてみても屁の役にも立たないと自嘲しつつ、
それでも皆、時々、振り返らなければ気が済まないことがある。そうせずには
いられないものなのだ。
オレだって、御多分に洩れず、な。
ウィルは小さく息を吐いた。全ては三年前。あの朝、あの一回きりの、だが、
取り返しのつかない失敗こそが大本なのだと、骨身にしみている。
もし、あの朝、きっぱりと拒絶出来ていたら。玄関先で、寝耳に水だ、オレの
知ったことじゃない、引き取る義理はない、このまま施設に行ってくれって、
“お仲間”の巣窟に引き取って貰えって、突っぱねることが出来ていたら。
そう出来れば、良かったのだ。
でも、オレには言えなかった。酷だと思ったから。だけど、もしも、あの時、
きっぱり言えていたら。結局、それが一番良かったんだ。そうすれば、あいつ
も何の心配も、遠慮もいらない、丸ごと受け入れてくれる場所に安住出来たん
だよ。だって、あいつが当初、行こうとしていた“そこ”は行く先のない信者
を受け入れるための専門の施設だったんだろ? だったら、こんな寒い駐車場
で時間を潰すのとはわけが違う。本物の安堵、本物の安住の地じゃないか? 
甥に同居を断られりゃ、傷付くかも知れないよ。だけど、それはほんの一時の
傷だったんだ。ちゃんと大きな顔で住んでいられる施設にいて、時々、甥っ子
の家を訪ねて、ショーンの可愛い成長ぶりに目を細めて、楽しんで、また自分
の居場所に帰るって、安気な生活を送る方が良かったんだ。オレに、もう残り
少ない肉親に絶縁状、叩き付けられてからそこに行くより、ずっと気分良く、
楽しく生きて行けただろうに。
ウィルは切なく、ため息を吐く。
オレだって結構、反省しているんだぜ? 後悔もしているんだ。あっちさえ、
口が過ぎたって、ちょっぴりでいいんだ、反省しているようなそぶりくらい、
見せてくれたら、ここまでこじれることはなかった。そうだよ。あんな女、神
様でもなきゃ、可愛いなんて思えないよ、全く。

 

back

menu

next