通報を受け、麻木らが現場に駆け付けた時、夏の日差しが満ちた公園は既に 制服の男達で埋め尽くされていた。麻木とその同僚、田岡も一抹の不安を感じ ながら、その群れの奥へと割って入って行く。その時、嫌な予感はあったのか も知れない。もしかしたら、居合わせた者、皆が結末を感じ取り、知っていた のかも知れない。しかし、まだこの時、誰も自分達のテリトリーで、また同じ 凶行が繰り返されるなどとは思っていなかった。自分達の住む町の安全と幸せ な未来を信じていたかったのかも知れない。少なくともあの日、青田の亡骸が 発見されるまでそこは目立たない、静かな町だった。だからこそ、酔っぱらい が悪ふざけして遊具から落ちて死んだ事故だと、誰しもが思いたかったのだ。 実際、そんな馬鹿な事故しか起こらない町だったんだ。 転がった死体の、茶色い粘着テープで後ろ手に縛られた、その際立った特徴 に目を瞑りたかった。しかし、やはり、そうはいかない。取り囲み、恐る恐る 近づく一団。そして、その異様に真っ先に気付いたのは田岡だった。 相変わらず興味なげに一団の最後尾から眺めていた田岡だったが、ふとまだ 十分に夏らしい鮮やかな陽光に佐野の青いストライプのシャツの襟口で何かが 小さく、しかし、眩しいほど強く煌めくのを見咎めたのだ。彼には一瞬、それ が金属が反射して放つ光に見えなかった。それで一層、気を惹かれ、あたかも 魅せられたように人波をかき分け、死体へと近づいた。麻木は珍しく呼ばれも しないのにやって来る無表情な若い同僚の様子を不審に思いつつ、だが、その 行動を止めることはしなかった。 今、思えば。 居合わせた者、皆が同じように、まるで何かに魅入られたように、ただじっと 田岡の行動を眺めるだけだった。 歩み寄った田岡はごく簡単な動作を取ったに過ぎない。彼はまず佐野の上側 になっていた左肩を引き、ごろりと死体を上向かせた。 そのまんまじゃ、下の様子がわからないからな。 そして、露わになった佐野の顔面。口元は粘着テープで塞がれていたものの、 皆が内心、恐れていたような損傷はなく、一見、まともに見えた。顔に異常は ない。思わず安堵し、自ずと一同の視線は首の方へと下げられる。その首には 小さな淡い水色の玉が連なったネックレスがあるに過ぎないようだった。それ が日差しに反射し、田岡の目を惹いただけなのだろうか? しかし、どこか、 何か、不可解なものがある。 何だ、この違和感は? ざらりと妙な、得体の知れない何かが肌に触れたような、そんな違和感を覚え て、麻木はその原因を探した。ネックレス。そこに感じる不可解な、何か。 麻木はずっと昔に亡くした妻を思い浮かべてみる。彼女はネックレスをして いた。彼女の長い首となめらかな胸元を上手に分けたネックレスは優しげで、 こんな窮屈な感じはしなかったはずだ。 だって、身を飾る品は付け心地も大切なんだろう? 麻木自身は装飾品とは縁がない。だが、想像に過ぎなくとも、常に肌に触れる 物は全て、窮屈では困るだろうと思う。だからこそ、亡妻の金のネックレスは 柔らかく彼女の首筋に添っていたのだ。しかし、佐野のネックレスはあまりに もぴったりと首に沿い過ぎて、まるで首を絞め上げているかのようだ。 あれじゃあ、息苦しい。飯も喉を通らないんじゃないのか? |