田岡も同じ疑問を抱いたのだろう。彼は己の顔を近づけ、ネックレスを覗き 込む。それにつられるように麻木もまた田岡の肩越しにネックレスを覗いて、 そして、次の瞬間、二人は同時に息を呑んだ。 嘘だろ? 水色の球は全く予期しない物だった。大体、この頃、日常生活では見かけない それ。 待ち針...。 待ち針だって? 可愛らしい水色の球。だが、それは待ち針の頭だった。針は一本ずつ、ごく 丁寧にしっかりと佐野の首の中へと刺し込まれ、その球、一粒、一粒の下から 彼の血が細い糸のように流れ落ちていた。まさに“死のネックレス”だった。 それは生と引き替えに身にまとう、悪魔じみた代物だったのだ。世の中に二つ も、三つもあって欲しくはない。そして、今のところ、この世で一つの目前の それは佐野の首周りを予め、線でも引いていたかのようにまっすぐ一粒分の隙 間も、迷いもなく埋め尽くしていた。 その異常な根気に麻木は吐き気すら覚えた。針供養とは意味が違うのだ。 豆腐に針を刺すのとはわけが違うだろ。 『もしかして、これ、生きているうちに刺したのかな』 元々が色白の田岡が青ざめた顔を凍り尽かせ、力無く呟いた。誰にともなく、の しかし、彼は答えを求めて問うたのだろう。だが、周囲の誰一人、その問いを 聞いていながら、答えようとはしなかった。悪意ではない。ただ、返してやる べき言葉が見つからなかったのだ。 犯人達とは一体、どんな生物なのだろう? 鬼畜だとは思う。しかし、残念 ながら、この世に魔物などいはしない。当然、“彼ら”も人間なのだ。 オレらと変わらない。普通に食って、寝て、たぶん仕事をして、そして生きて いる、普通の人間のはずなんだ。相対的に見て、頭はいい方なんだろうが。 確かに気はおかしい。だが、油断はなかった。犯罪を犯せば、当然、そこら辺 中に散乱し、取り残されるはずのわずかな痕跡もまるでなく、立て続けに大胆 なことを、しかも町中でしでかしているにも関わらず、目撃者一人いないのだ から。 本当にいないんだ。 何一つ、手掛かりはなかった。正直、自分達が何を探しているのか、めざす ものの、その朧気な姿も見えないまま、麻木達は照りつける日差しと、行く先 の見えない不安に焼き尽くされながら二ヶ月、ただ必死に精一杯、歩き続けて いた。そして、いっそ、新たな犯行が何らかの手掛かりをもたらしてくれない ものかと、誰もがこっそり願い始めたその頃。 十月七日、第三の死体が小学校の校庭に設けられた小さな砂場で発見された のだった。 |