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「だから、二人が似ていたとしても、何ら不思議なことではない。従兄妹同士
だったんですからね」
 島崎は麻木の抱えていた思いを見て取ったように楓は父親ではなく、祖母に
似ていると言った。まるで真夜気のように。
すると。こいつも? 
彼は微笑んだ。
「僕はカホさんの妹の子です。楓さんの従兄になるのかな」
麻木は息を呑んだ。カホの甥。だからだ。彼はカホに似ているのだ。カホの女
にしては強い容姿を男のものにしたなら、きっとこんな感じだろう。品のある
知的なハンサムで体躯にも恵まれている。では、カホに似ていたと言う楓の父
親もこんな感じだったのだろうか。悪い感じはしなかった。あのカホとなら、
まさに似合いの二人だっただろう。それなのになぜ、二人は結婚しなかったの
だろう?
子供まで授かっていたというのに。
「それより、麻木さん。楓さんに連絡して下さいませんか。この通り、天井に
穴が開いている有様ですし、あちこち爆破されてマンションは大わらわです。
今日はどこかホテルでも取って下さると助かるんですが」
麻木は天井に目をやった。脱出用に作ったものなのだろう。どうにかすると、
その一ヶ所だけはパネルが外れるように細工されていたようだ。明らかに上の
部屋からここへ逃げ込めるように仕込まれていた。こんなものを用意しなくて
はならないほど、ミーヤは危険な仕事をしているのだろうか? 島崎は麻木の
心中の詮索を見て取ったらしい。
「ミーヤが作ったものではありません。この子はそこまで人に恨まれるような
ことはしないし、出来ませんから」
島崎はそう言って、自分も天井を見やった。
「こんなものが役に立つ日が来るなんて。これを作らせた本人だって、思って
もいなかっただろうから」
 彼が呟いた言葉。麻木には推察すら出来ない内容だった。彼らには共有する
過去があり、麻木にはそれに干渉する資格はなく、土台、どうにも出来ない話
でもあった。
過去だからな。誰にも触れることもままならん。
だが、これから先に関しては全くの門外漢ではない。彼らの未来の一端は楓の
未来でもあるはずだ。彼らはこれまで通り、楓とは無関係な存在として、同じ
マンションを反対側から共用し、すれ違い続けるつもりなのだろうか。ミーヤ
は楓と鉢合わせしないように地下から上がる専用エレベーターを使い続けるの
だろうか。そっくり同じ姿をした兄を避けて。
「あんた達はこのまま、楓とは他人のふりをして生きて行くのかね?」
島崎はじっと麻木を見据えた。
「それは将来、彼らが決めることです」
「彼ら?」
「ええ。僕は枝分かれした支流の人間ですからね。本流の人間達には干渉する
理由がありません」
「本流?」
「つまり、当主の、いわゆる爺さんが決めることですよ、全ては」
小岩井は不安そうに島崎を見ている。話の内容が危険な領域に入って行くこと
を恐れるような、怯えた目で小岩井と部下達は島崎を見ていた。彼らは当主と
やらを話題にすることにさえ、不安を覚えているようにも見える。島崎が失言
し、災禍を被るのではないかと戦々恐々なのかも知れない。彼らのその不安に
気付いたらしく、島崎は大らかそうな笑みを浮かべて見せた。
「ほら。片付けは万全を期しておかないと大変なことになるよ。近々、大旦那
様が自ら、ここへおいでになるらしいからね」
「はい。すぐに」
彼らは緊張の面持ちで承知すると、逃げるように去って行った。
 彼らを見送って、島崎は改めて麻木を見やった。
「楓さんが仕事を終えて、それからなら曽祖父と会う可能性はあるでしょう。
でも、それまではあなたも知らないふりでいて下さいませんか? その方が楓
さんも煩わされなくていいでしょう。それに曾祖父も無茶はしません。楓さん
に嫌われては困りますからね」
「楓を奪おうという腹なのか」
島崎は苦笑したようだ。彼には麻木の心配がおかしかったらしい。
「なぜ、笑うんだ?」
「だって、楓さんは誰かに奪われるような人じゃないでしょう? 心配無用だ
と思いますよ」
「島崎」
慌てふためいた様子で飛び込んで来た真夜気はベッドに横たえられたミーヤを
認め、息を呑んだ。
「ミーヤ」
彼の驚愕の表情に麻木は真夜気の真意を見た気がする。彼は本当に従兄が好き
で、頼りにしているのだ。

 

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