「オレは敢えて、その子の仲良しで、いつも一緒にいる二人の内、特にオレを 警戒してつっけんどんな態度を取る方をマークすることにした。だって、そう いう奴の方が案外、すんなりガードが緩くなるからな。楓みたいな優しそうな 顔した奴はそのまま、一生だってガードし続ける。困り者だよ、ああいうの」 「それが小鷺か」 「そう、小鷺 真夫。本屋であいつが本を選んでいるのをチェックして、傾向 を研究した。お坊っちゃまのあいつが好きなだけ、どんと買い漁るのには閉口 したけど、ま、その家の教育方針だからな。仕方ないさ。オレの方は立ち読み と図書館で探ったんだが、かなり、はっきりとした好みだったから答えはすぐ に出た」 九鬼は意味ありげに目を細めて見せた。 「警戒心の強いお坊ちゃんがバス停でオレに出くわすのにも慣れた頃、一気に 距離を詰め、いっそ親しくなるチャンスがやって来た。その日、道路脇に一つ 猫の死骸が落ちていたんだ。周りには誰もいなかった。あいつは興味深そうに それをちらちらと眺めていて。だからオレは言ったんだ。開いてみないかって ね」 麻木は九鬼の笑みに混じった凄みに返す言葉がなかった。 「オレは返事なんかさせなかった。さっさと猫の死骸を拾って、懐に入れて、 呆気に取られているお坊ちゃんの腕を取って走り始めた。たったの三分でオレ のアパートの部屋に到着して、それから始まったのさ、オレとあいつの危ない コレクションが」 「コレクション?」 「そう。写真を撮るの。あいつは解剖がしたくって、オレは少しでも変わった オレらしい写真が撮りたかった。あいつは楽しかった思い出を記録出来るし、 オレは適当なネタを貰える。いい共犯者だろ?」 麻木は吐き気を堪えながら立っている。こんな人間が楓の身近にいたなんて、 知りたくもなかった。そして、知らずにいた自分が心底、情けなかった。 「でも、オレは殺しちゃいないよ。そんなことまでしていない。オレが今まで に殺した生き物って言ったら、ゴキブリと蚊の類だけだ」 「それは、小鷺がやっていたという意味か?」 九鬼は首を振った。 「それも正確じゃない。あいつともう一人が交代にやっていた。オレは記録係 さ。ただ、写真に収めていただけだ。ずっとそういう役回りだったよ、何せ、 カメラマンだからな」 今度は麻木の方が押し黙った。九鬼は一連の事件への関与を認め、その上、 犯人を示唆している。ありがたい展開だ。だが、なぜ、九鬼はすんなり、ここ まで認めたのか。物証がないことくらい、当事者、犯行グループの一人なら、 誰より、よく承知しているはずだ。当然、麻木の詰問は所詮、何の根拠もない 勝手な思い込みに基くものに他ならないと、ばっさり切って捨てることなど、 容易いことのはずだった。小鷺に裏切られたショックから自棄になっているの だろうか。例え、そうだとしても、それでもここまで白状する必要はないし、 大体、九鬼は大して取り乱しているようにも見えなかった。麻木は九鬼の落ち 着きぶりを疑い始めた。先程までの疑心暗鬼に駆られた、不安な様子はまるで 見受けられないのだ。しかし、どうして、どうやって、九鬼は平静を取り戻し 得たのだろう? 麻木は出来るだけ、辺りに気を配った。どこかにヒントがあるはずだ。九鬼 が出頭する覚悟を決めたとは思えない。むしろ彼は安心して、リラックスした ように見える。だからこそ、ペラペラと話す必要もないことまで喋り出したの だ。麻木は不意に自分の背後に不安を覚えた。今日、このkスタジオに人影は なかった。しかし、もし、そこに新たに一人、九鬼側の誰かが加わったなら、 この事態はどう変わるのか。考えるまでもなかった。 「それ以上は言わない方がいい」 小鷺だ。麻木は振り返らなかった。前方の九鬼にも警戒しなければならない。 彼は小柄だが、若く、十分に鍛えている。素人と侮れない。 「用心しなくちゃ、危ないよ」 |