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「死人にも警戒するのか。どうせ、もうじき、死体にする腹積もりのくせに」
「そりゃ、警戒するでしょ。化けて出られちゃ困るもの」
小鷺と九鬼の会話に麻木は二人のやる気を見て取った。二人は麻木まで殺す気
なのだ。
「おまえ達が連続殺人鬼なのか」
目の前の九鬼はにやりと笑い、背後で小鷺が答えた。
「女子供に暴力をふるったわけじゃないし。大した犯罪だとは思いませんけど
ね」
「本気で言っているのか?」
「もちろん。だって、抵抗力のない者を嬲り殺しになんて、出来ないでしょ。
そんな卑怯なこと、しませんよ。それに、妻子があるような人には手出しして
いません。そこら辺、ちゃんと配慮はしています。女子供が路頭に迷うようで
は不憫ですからね」
小鷺は人の良さそうな調子で当たり前のように言ってのける。麻木は嘆息して
いた。真夜気が言った通りだった。真夜気は小鷺の本性を知っていて、だから
毛嫌いしていたのだ。彼の言う小鷺の持つ嫌な匂いとは即ち、被害者達の血の
匂いだったのかも知れない。
「オレを殺して、安全ってわけか。だが、逃げ切れると思うのか?」
彼らは話し合うのかも知れないが、どうせ決定するのは小鷺だ。麻木は九鬼の
左に曲がった鼻ばかり見ていても無意味と知っていた。
「いつまでも無事ではいられないぞ」
小鷺は微笑んだ。
「ようやく僕の顔、見てくれましたね」
麻木が振り向いた先には見慣れた小鷺の笑顔があった。彼に屈託はなかった。
九鬼のような動揺は全く見せず、日常会話のように自らの犯罪を語る始末だ。
しかし、一体、何が彼にそこまでの余裕を与えているのだろう? 九鬼と小鷺
の違い。それは明らかな実家の力の差だ。
「いくら小鷺製薬の御曹司でも、無実は買えんぞ」
「裁判になれば、そうかも知れませんね。でも、僕は今まで通り、捜査線上に
は浮かびません。関係ない、ただの市民のままですよ。これから先、ずっと。
ましてや、邪魔なあなたがいなくなれば、より安泰だ」
今、この小さな白い顔に浮かんだ笑みが消せるなら、その頭を撃ってやっても
いいくらいだ。麻木はそうまで思った。三十そこそこの男が二人。麻木は二人
より、はるかに長身だが、そんなものは何の役にも立たない。若い二人は自信
満々で、麻木一人くらい、簡単に仕留められると踏んでいるのだ。
 今、麻木の身は確かに危機的状況に置かれている。だが、この危機に際して
も、麻木にはそれより何より大事な、どうしても知りたいことがあった。
「楓は、どこにいるんだ?」
「あいにく僕らは本当に何も知りません。興味もないし」
「お仲間はどうだ? おまえら、二人だけじゃあるまい。心当たりはないのか
? そいつらが楓を連れ去ったんじゃないのか? 大沢は? あいつがおまえ
らのサポートをしているんだろう?」
小鷺が苦笑いし、今度は麻木の背後に立った九鬼が口を開いた。
「さすがに察しがいいね。やっぱり、こないだまで刑事さんだっただけのこと
はある。あの大男はね、お坊ちゃんの昆虫採集の手伝いをしている、くらいの
感覚でやっているんだと思うよ。格闘技マニアが薬品まで使うんじゃあ、鬼に
金棒だし、大体がちょろいバイトだよな。良い金を貰って、貸しも作れると」
麻木は九鬼の鼻高々な説明なぞ、聞きたいとも思わなかった。
「斎藤をさらおうとしたのはやはり小鷺、おまえか。じゃ、あれは大沢だった
んだな?」
「あれね。あれは父のスタンドプレイですよ。あの人、思う通りに行かないと
時々、暴走するから。頼みもしないのに。だから、僕は九鬼さんを出し抜いて
はいない。父がやんちゃ過ぎるだけのことですよ」
小鷺はさも困ったように言う。行為そのものが犯罪だとは思ってもいないよう
な気安さだ。
「オレも危うくこのオヤジに担がれるところだった」

 

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