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「あれは父の独断だった。僕は一切、知らなかったんだ。無論、父だって悪気
でやったことじゃない。思い余ってつい、やってしまったことなんだと思う。
ミーヤに乱暴な真似をするつもりはなかったはずだ。勿論、失礼なことをした
んだ。心から謝る。申し訳なかった。すまなかった。父にも日を改めて、必ず
ちゃんと詫びさせるから」
ミーヤは小鷺の懸命に謝っているふうな顔を無表情に眺めている。彼は小鷺の
話には関心がないようだった。
「もし、僕が知っていたら、あんなこと、させなかった。わかるだろ?」
麻木は小鷺の必死の弁解ぶりを見つめるばかりだった。きっとこの調子の良さ
で何でも思う通り、自分の望む通りに丸め込んで来たのだろう。本性を見た今
でさえ、小鷺の顔つきは真摯なものに見える。知らなかった、無関係の自分は
勿論のこと、それを命じた父親も、命じられるまま、実行した大沢までも被害
者であるミーヤに許させようと小鷺は画策しているのだ。何という厚かましさ
だろう? しかし、この調子の良さを相手にしてはミーヤも納得させられるに
違いない。そう憤る麻木の前でミーヤは予想外のことを言った。
「あいにく僕は君の父親は嫌いだし、彼がどんな人間なのか、君と同じ程度に
は知っていると思うよ、マオちゃん」
彼は九鬼を見やった。
「九鬼さん、お願いしていた写真、今、頂けますか?」
ああ、と九鬼は思い出したように頷く。そして、奥の部屋へと駆けて行った。
 九鬼は小鷺にとって自由に使える手足に過ぎないように、ミーヤにとっても
重きを置いた存在ではないようだ。そして九鬼自身、それに異存を唱える気は
ないらしい。丸ごと失うよりはよほどましと思っているのかも知れない。九鬼
を待つ間にミーヤは小鷺にもう一言、言い添えた。いっそ、それを言うために
だけ、九鬼を追い払ったのかも知れない。その声は冷淡だった。
「君はお父さんに似たんだね」
「僕は何もしていない。知らなかったんだ。ミーヤが気を悪くするのは当然だ
と思うけど、でも、僕に責任はないよ。だって、何も知らされていなかったん
だから」
「言い訳している暇なんて、ないんじゃないかな」
冷たい声でミーヤは小鷺の言い訳を制する。
「警察は押さえているようだけど、うちには小鷺家に遠慮する義理がない」
「うち? 遠慮ってそれ、どういう意味だ?」
「小鷺さんが野放しにしているから、大沢が好き勝手出来る。つまり、大沢の
行動に小鷺家は責任を持たなくてはならない」
麻木はミーヤの人形然とした無表情を眺めている。彼の言っていることが推量
出来なかった。だが、ミーヤは小鷺や九鬼が連続殺人に手を染めていることを
責めているわけではないようだ。ましてや、自分が連れさらわれかけたことを
咎めているふうでもない。大沢と小鷺の父親は一連の事件にも、ミーヤの拉致
未遂騒ぎにも関わっているはずだ。だが、ミーヤは更に異なる、別件に関して
の大沢と彼の後ろにいる小鷺製薬会長の責任を論じているように聞こえる。
何の話だ? 
まだ他に事件を起こしているのか、こいつらは?
「責任って、大沢が一体、何をしたって言うの? そりゃあ、おまえのこと、
さらおうとしたのは事実だよ。それに関してはミーヤの気が済むまで謝るし、
僕に何か出来ることがあるなら、全力で償わせて貰うから」
「何が出来るって言うの?」
「何でも、だよ」
ミーヤの冷ややかさに小鷺は怯まない。何が何でも今、ここでミーヤの機嫌を
取る覚悟なのだろう。

 

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