「大して悪いことなんかしていない。大体、どうして連続殺人に荷担している って率直に、声高に責めないんだよ。確かに数の上では五人殺した。だけど、 それが何だって言うんだ? あいつらは毛虫みたいなものだ。踏み潰したから って、それで世間とやらにどんな迷惑を掛けた? 一時、騒がせただけのこと じゃないか。そんな程度のことで非難されたくはないね。いいか。僕はおまえ にだけは気を遣って大事にして来たし、おまえが大事だと思えばこそ、あいつ らが許せなかったんだ。麻木 楓って歌手には何の興味もないが、実際、こう まで似ていたら、結果的におまえ達は同じものってことじゃないか。だから」 小鷺は激昂し、声を荒げ、ミーヤを睨み据える。傍らから眺めるばかりの麻木 には小鷺の、その目に浮かんだ感情は愛情ばかりだとは思えなかった。根底に あるものは無論、どうにもならない程、強く煮えたぎった愛欲だろう。だが、 表面に浮かんでギラついているものは怒りであり、憎しみに他ならなかった。 今、命の危険にさらされているのは麻木ばかりではない。 「こんなに似ているんだ。パッと見にはそっくり同じ顔なんだぞ。麻木 楓を 妄想の対象にするのは結局、おまえを弄ぶ夢を見るのと同じなんだ。あいつら が夢の中で麻木って歌手を煮て食おうが焼いて食おうが連中の勝手だ。だが、 実際はおまえを弄っているのと同じじゃないか。そんなこと、許せなかった。 おまえを汚されるようで本当に嫌だった。我慢ならなかったんだ。それは九鬼 だって同じだ。僕達はただおまえを守りたかった。わかるだろう?」 ミーヤは反応らしい表情を浮かべないまま、小鷺を眺めている。それは楓の 無表情とは少し趣が異なって見えた。 「あれがおまえの親戚の子なら、すぐに大沢に返させるし、うちの薬の後遺症 が出ないように一生でも治療の面倒は看る。元通りにして返す。だから、僕に チャンスをくれ」 そう言うなり、小鷺がふいに掴んだミーヤの手首。麻木は袖口から覗いたその 傷を見てしまった。皮膚は一筋の痕を残し、手首を覆っている。だが、到底、 そうまでさせた心の傷までは塞がっていないのだろう。ミーヤにその時、死を 決意させた要因はわからないが、小鷺は知っているに違いなかった。その深い 傷が残った手首を小鷺は力任せに握っているのだ。 「一緒に来てくれ」 後ろで九鬼が目を見開いた。 「僕は何だって、自分の思う通りに生きて来た。親の力だと言ってしまえば、 それまでかも知れないが、僕なりに努力もして恵まれた人生だった。その僕が 何年待っても思うように出来ないのはおまえだけだ。オレは散々待ったんだ。 腹が立つことがあっても、今日まで無理強いなんか一度もしていない。知って いるよな。だけど、僕にも我慢の限界はあるし、待っているだけじゃ、おまえ の気持ちは変わらないらしいからな。今日一日だけに限定しても、無茶をする ことに決めた」 小鷺はとうとう業を煮やし、強行する腹を決めたのだ。小鷺製薬の施設の奥、 他人に一切、干渉されない場所にミーヤを連れ込む気になったのではないか。 「マオちゃん、君は僕のこと、知らないんだよ、何も」 ミーヤは冷めた調子で小鷺を眺める。その声にも眼差しにも小鷺に対する不安 は感じられない。彼は平静だった。今、小鷺と恐らく、補助するだろう九鬼に 襲われたら簡単に連れ去られるだろう。麻木一人では若い二人組からミーヤを 守ることは難しい。そんなことは状況を見れば、誰にでもわかることだ。それ にも関わらず、特別、頭が良いはずのミーヤは何ら恐れていない様子だった。 ___そもそも何で、こんな所に一人で来たんだ? 小鷺に狙われていること くらい、百も承知していただろうに。 「君にも九鬼さんにも、これ以上のことは何も出来ない。だって。これ以上は 僕が許していないから」 小鷺は微笑んだ。 |