彼には麻木の内心に巣くう生への執着がいっそ、煩わしく見えるのではない か。麻木はそんなことまで勘繰った。そうでもしなければ、ゲームだと言って のけるミーヤの感覚を人のものと解することが出来なかったからだ。 「麻木さん。僕は楓さんとは違う人生を歩いて来た。それを誰かのせいにする つもりはないし、そんな情けないことはしません。ただ僕には力がなかった。 そして、楓さんにはその力があった。それだけの話なんですから」 麻木には正直、今、ミーヤが言っていることのほとんどが理解出来なかった。 あれこれと推察してみるに必要な情報を持っていないし、彼の人生に強い興味 があるわけでもない。有り体に言えば、麻木が知りたいのは楓の行方だけなの だ。 「オレは楓が生きているという確証が欲しいんだ。無事だという証があれば、 オレだって少々は待てる。だが、それがなければ心配で生きた心地がしない。 とても何日も、期限も切らずに待ち続けられない。わかるだろう? 誰だって そうだろう? 確かに真夜気は楓は被害者にはならないと言ってくれたし、彼 がそう言うのなら間違いないとも思う。頭じゃ理解しきれていないが、それで もお宅の人間が摩訶不思議な能力を持っていることはわかっているつもりだ。 だが、それでもだ。とても待ちきれない。楓が戻る前にオレの方が耐えきれず に飛び降りてしまいそうなんだ。だから頼む。一言でいい、楓は生きている。 あんたの口からそう言ってはくれないか」 麻木は正直に、必死に訴えた。ミーヤは決して、無慈悲な人間には見えない。 いや、むしろ、優しいのだと思う。まいという友人の命日に今井に手に掛けた 小鷺に怒ったのも、亡くした友人を想う優しい気持ちがあればこそのことだ。 そして、それほどまで怒っていたにも関わらず、結局、ミーヤに小鷺を殺める ことは出来なかった。それはきっと小鷺もまた、まいの大切な友人だったから だろう。そんなミーヤが無慈悲であるはずがない。ミーヤは麻木の目をじっと 見つめ返していて、逃げるふうはない。きっと通じる。麻木はそう確信した。 「頼む。あんたにわかることの全てを教えて欲しいんじゃない。一言、生きて いると言って欲しい。しばらく待てばいいだけだと信じさせてくれないか?」 「さっき、僕を止めたのは楓さんです。それでいいでしょう」 ミャア。 それ以上はダメだと言うように足元でパピが声を上げた。麻木には踵を返し、 エレベーターに乗り込むミーヤを引き止めることはもう、出来なかった。 楓がミーヤを止めた。その現実の放った一撃は大きかった。それは楓に水城 という不可解な一族の血が色濃く流れていて、しかもミーヤの行動に干渉する ことが出来るほどの権威でもあるということに他ならないからだ。無論、楓が 止めなくとも、優しいミーヤには古い友人を殺すことなど出来なかったのかも 知れない。だが、もし、楓が無力ならミーヤには聞き流すことも出来た。未だ 麻木を名乗る楓には指図する権利はなかったはずだ。それにも拘らず、ミーヤ は聞き入れた。つまり、そこには既に厳然とした力関係が成立しているという ことになるのではないか。麻木は己の無力をようやく悟ったのだ。とうに楓は 麻木の手を離れ、隣の世界に移り住んでいると実感していた。 |