「わかる、って?」 「斎藤なら、犯人に目星が付いている、ってことよ」 「まさか」 「何を言っているの? あの男が金に糸目を付けなければ、相当な情報が手に 入ったはずよ。警察よりもお利口な男が血相変えて挑むんですからね」 そうなのかも知れない。しかし、一体、どういうことなのだろう? ミーヤと 楓は似ている。真夜気はそう言った。だが、見分けが付かないということでは ない。そんなことも言った。麻木は結局、自分一人、何も知らされず、いっそ 騙されていたのではないか、と疑い始めていた。楓はミーヤの存在を知らずに いたらしいが、小鷺はミーヤを知っていて、何も知らないふうだった。あれは 何も知らない楓への配慮なのか。それとも別に何らかの意図があったのだろう か。 「ねぇ、麻木さん。わたしは健一のために何が何でも、少しでも報復したいの よ。犯人を捜すには先ず、第一段階として嘘を吐いている人間を捜すものなん でしょ? だったら、わたし、知っている限りの嘘吐きのリストを提出する。 だから、あなた、捜査して下さらないかしら?」 「オレはもう刑事じゃない」 「知っているわよ、そんなこと。だからこそ、あなたに頼んでいるんじゃない の? 警察には犯人を逮捕する気がないか、出来ない理由があるのだと思う。 そうじゃなくて?」 確かにそうだ。麻木は玲子の言い分に耳を傾けざるを得なかった。彼女だけは 本気で犯人逮捕を望んでいる。そんな協力者は初めてなのだ。 「で?」 「そうね。先ず、九鬼が嘘を吐いている。あの男はうさん臭い。彼がスポーツ ジムに通っていること、知っていて?」 「ああ。通っているな」 「そこが超高級会員制だってことも?」 「いや。だが、それが重要なことなのかね?」 玲子はスムーズに運ばない会話に少しばかり苛立った様子を見せた。 「五年も前に入会しているのよ。五年も前よ。彼には入会する資格がなかった と思わないの?」 「仕組みがわからないんだが、本人に資格がないのに入会しているってことは つまり、誰かの推薦か、紹介か、何かを受けて入ったってことか?」 玲子はようやく麻木にも話の筋が見えて来たと安堵したように頷く。 「ええ。そう。それもよほどの大物と言えるわね。ちなみに健一は落ちている のよ、その審査に。飾り物とは言え、プロダクションの社長が落とされる審査 に、このわたしの息子がはねられる審査によ、大したことなかった、しがない カメラマンが通った。それって、推薦者がよほどの大物ってことだと思わない ?」 今井が通らない審査なら、そうだろう。だが。九鬼の周辺にそんな大物の存在 を感じたことがあっただろうか。麻木は首を捻る。九鬼は楓の指名でチャンス を掴んだ男であって、経済界や何かに縁故があるとは思えない。九鬼の身辺を 脳裏で辿り、ふと思い出す。麻木の視界に九鬼と大物とが同時に存在した一瞬 が確かにあった。荘六で。 二人は仲が悪かった。とは言え、あまりに古い顔見知りだ。長い付き合いと 言えなくもない。何せ、小鷺が高校生の頃からの知り合いなのだ。それに小鷺 が高校生なら当然、ミーヤも高校生で、小鷺の傍らにいたのではないか。あの 夜。小鷺の挙動はおかしかった。なぜ、小鷺が落ち着かないのか、当時の麻木 にはわからなかったが、もし、二人が本当は親しかったのなら。なぜ、旧知の 間柄である二人は反目しているようなふりをしたのか。そう演じて見せなくて はならなかったのか。もし、そんな芝居を打ったのなら、麻木達に知られては 困るような理由があったからだとしか思えないが、しかし、そんな理由は通常 には考えられない。 「小鷺か。彼が九鬼の推薦者なのか?」 玲子は頷いた。 「九鬼が会員で、健一が落ちたのが不満で、わたし、調べたの。九鬼の推薦者 が誰かをね。ビックリもするわよ。小鷺製薬の御曹司が推薦していて、しかも 彼は楓と同じあのマンションに住んでいる。元々、楓はあそこにはいなかった けど、斎藤は住んでいたわ。だって、あれは吉川が彼に買い与えたものだから ね。吉川って、因業爺さんの名前、知っているんでしょ」 「ああ」 |