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「九鬼と小鷺は旧知の間柄で、しかも特別な便宜を図るほど、仲も良かった。
わかる? これって、決して意味がないことじゃないわ。だって、九鬼が撮る
楓の写真はいつも斎藤に似ていた。明らかに斎藤を意識して撮っているって、
九鬼の意図を見て取ることが出来た。おまけに小鷺はガキの頃から斎藤に惚れ
込んでいてね、高校生の頃には斎藤絡みで事件を起こして、それで御曹司なの
に留年せざるを得なかった始末なのよ。そんな奴らの知らんぷりって、小芝居
に意味がないはずがない」
「だったら」
ずっと、犯人は楓の知人だとばかり思っていた。だが、ミーヤが兄である楓と
似た、楓並みの姿をしているのなら。楓への愛情や憎悪のためだけではなく、
ミーヤへのものであった可能性もあるのではないか。邪な愛情の対象がミーヤ
なのだとしたら、小鷺や九鬼にまで動機が生じかねない。
「嘘吐きは他にもいるのよ、麻木さん」
「他に?」
「ええ。うちのスタッフだって顔をしていながら、こっそり斉藤の所に出入り
している奴がいるの」
「そいつが斉藤と繋がっていると?」
「ええ、そうよ。あいつのお仲間が呼ぶ変なあだ名で呼んでいたし。わたし、
その男を尾行したことがあるのよ」
好奇心が強過ぎるのか、玲子は年齢のわりに勇ましい。半分、呆れながら麻木
は玲子を見やった。
「誰だ?」
「土田。健一の所の副社長。あいつが楓にあのマンションを勧めたの。それが
妙に引っ掛かっていたからわたし、時々、あいつの後を付けたの。そうしたら
あいつ、斎藤のマンションの裏口から出入りしていた。知っているでしょ?
あの裏口は斎藤の客しか使えない。つまり、土田は斎藤と繋がっていて、その
上で楓の近くにいるんだわ」
「楓は何も知らないんだろうか?」
「わからないわね。でも」
「でも?」
「他にも肉親がいる、そっちは美形で金持ちだと知っていたら、あんな強度の
ファザコンにはならないんじゃなくて?」
玲子は気が緩んだのか、ふっと母親らしい笑みを浮かべた。
「健一がよくこぼしていたわ。楓はファザコンだって。あなたがライバルで、
その上、全く歯が立たなかっただなんて、何て不甲斐ない子なんだろう。本当
に情けないわよね」
玲子は苦笑いしながら、しかし、その目には光るものが浮かんでいた。彼女は
涙をごまかそうと躍起になって、懸命に話し続けているのだ。
「出来が悪い子ほど可愛いだなんて、嘘っぱちだと思っていたけど、まんざら
嘘でもなかったのね。死なれてみて思うの。あいつのことでイライラしている
のも、いい暇潰しだったんだなって。死なれてしまったら。もうね、やること
がなくて、一日が長くて長くて、いくら待っても終わらないの。馬鹿は長生き
するもんだって、安心しきっていたから、こんなことになるだなんて、思いも
しなかった。きっと将来、わたしが死んだら、あの子が葬式を出してくれるん
だとばかり思っていたのに」
しゃくり上げ始めた彼女が落ち着くまで麻木は根気良く、ただ黙って見守って
いた。やり手で売っている彼女が声を上げて泣くことが許される場など、ない
と思えたからだ。彼女とて、何もかもうまく行かない、努力の実らない、運の
ない息子が愛しかったのだ。今井にこの母親の気持ちが通じていたのだろうか
 それを本人に聞いて確かめることはもう、叶わない。こんな当たり前の母親
を残し、殺された今井が不憫でならなかった。狂気の世界に住む犯人達が今井
を彼らの世界に引きずり込み、殺して、用済みとなった亡骸をこちら側へ放り
捨てた。そのやり方は断じて許せないし、これで終わりにしなければならない
のだ。麻木は先ず、斎藤に会おうと決めた。

 

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