「ええ。カホさんの。だから、土田はいくらかは水城家の内情を知っていて、 それで水城家に入りたいと考えているんです」 「入るって、人の家に入って、何をしたいんだ?」 ミーヤは僅かに肩を竦めた。 「さぁ。どうにでも出来ると思っているんでしょう。世間知らずの馬鹿な占い 師の群れだとしか思っていないようですから。我が家の人間の七割が持つ力の ことは知らないんです。こちら側から見れば、彼の方がよほど気楽な人間なの に、彼には勝算があるらしい。知らないって幸せなことですよね」 その土田が来ている。麻木はミーヤを見た。楓の存在はミーヤにとって吉と凶 のいずれなのだろう。余命三ヶ月と自覚している彼にとって、水城家の財産は 今更、半ば、忽然と現れた楓に渡ってもいいものなのだろうか。そんな麻木の 疑問に答えるようにミーヤも麻木を見た。 「水城家の財産は家族が贅沢をするために蓄財した結果ではありません。我が 家にとって大切な、ある場所を守るためにだけ必要なものなんです。だから、 誰が曾祖父の後を継いだとしても、一族の中に妬む者はいないし、争いになる こともありません。それを土田はわかっていないんです。もし、楓さんがそう 理解して引き継いでくれるなら、異存を唱える者など生じるはずもないのに」 「大切な場所とは?」 「お婆様がいる所。小岩井さん達の生まれ育った村にある山です。生前、カホ さんも一度、訪ねていますね。楓さんを連れて。アゲハさんも普段はその山に います。今はよく僕を訪ねて遊びに来るようになりましたけど」 「お婆様と言われても、誰のことだか、オレにはわからんが」 「ああ」 ミーヤは小さく合点した。 「楓さんに、あなた方が釣りに出掛けることを止めるようにと言った、その人 です」 麻木は息を呑んだ。五歳の楓が言ったこと。麻木ははっきりと覚えている。 『だって、女の人が行っちゃ、ダメって言ったから』 『山の中に住んでいる人』 あの時、麻木は楓の頭の具合を疑った。自分には意味のわからないことを言う 楓の頭がおかしいのではないかと疑い、実際、異常があると思い込んだ。あの 一件のために、ずっと楓を疑い続けて来たのだ。 「確か、その人には顔がないと、楓はそう言ったが?」 ミーヤは真面目な顔のまま、頷いた。悪びれた様子はなく、何某かを誇張して いるふうもない。 「ええ。顔などありません。お婆様はずっと昔に死んでいるんです」 「死んでいる?」 「正確には肉体が滅んだだけなのかも知れません。彼女の意志はその山で山の 生命と融合して生きている。今となっては山そのものがお婆様です。だから、 我々は山ごと、彼女を守らなくてはならないんです」 |