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 島崎は何も言わず、戻って来た麻木を見据えた。彼には全て、わかっている
はずだ。だからこそ、兄達の様子を聞くことなく麻木を見ていられるのだ。
「どうして、わかった? 何であんたに二人があんな真似をするとわかったん
だ?」
「簡単なことですよ。ミーヤに御二人に気を付けているようにと言われていた
からです。僕は意識して、注意していれば、その対象がこれから何をしようと
しているのか、短い時間なら先読み出来るんです」
島崎はごく普通の会話の最中であるかのように、そう説明した。彼にとっては
奇特な力ではないのではないか、そう勘繰るほど口調は平坦だ。
「予知能力か?」
彼は苦笑いして、否定する。
「いいえ。そんな御大層な代物じゃないですよ」
本当に大仰なものと捉えていないらしい。
「大体、容量的に大したものじゃないし。自殺しようとしているとか、そんな
一大決心を伴った、かなり強い意志なら、せいぜい四、五十分。細かい、軽い
ものだと三十秒って、その程度しか読めません。まぁ、おかげで試合で不自由
したことはありませんでしたけどね」
「試合?」
「小鷺が言っていたんじゃないんですか、大沢が勝ったことがない相手がいた
って」
「ああ」
スピードがものを言う格闘技で相手が繰り出す次の手が読めれば、負けるはず
はない。
「器用と言うのも変だが、便利なものなんだな。その力でもし、楓の居場所も
わかっているのなら、知っているなら教えてくれないか。廉に何をされるか、
本当はあんた達は皆、見当が付いているんだろう? 廉がどんな趣味を持った
ろくでなしか、オレ達が知らなかったことも、奴が隠していたことも全て」
島崎はまっすぐに麻木を見つめる。彼は真面目な顔をしていた。
「そうですね。でも、楓さんがどうするのかも大体、見当がついているから、
あなたを同行しないんですよ、麻木さん」
島崎はただ親切心から麻木を楓の元にはやらないように腐心している、とでも
言いたげな口ぶりだ。しかし、麻木にはその真意がまるで理解出来なかった。
楓を取り戻す、それ以上に確実な解決策などない。ましてや、彼らにはそれが
出来るのだ。それにも関わらず、なぜ、彼らは出来ることをしようとしないの
か。麻木にはそれが何より理解しかねた。待っている必要はない。何かが楓の
無事を約束しているのかも知れない。だが、そんな約束はいつ、反故にされる
かわからない。居場所がわかるなら一刻も早く、楓が無事な今の内に奪い返す
べきだ。それなのになぜ、彼らはそうしようとしないのか、麻木には全く彼ら
の意図が推察出来なかった。
「何で救出を渋るんだ? 恨みでもあるのか? あったとしても楓に今、何が
出来る? ミーヤみたいに催眠術を掛けるとでも言うのか? 万が一、そんな
ことが出来たって、最初にガスで眠らせられてしまったら意味がない。眠った
後に何をされても、防ぎようもないんだ」
 島崎は麻木を見据え、すぐには何も言おうとしなかった。彼が麻木の中の何
を見極めようとしているのか、麻木にはわからない。だが、ややあって島崎は
重そうな口を開いた。気が進まないというふうに。
「麻木さん、楓さんは水城家始まって以来の異能力の持ち主ですよ。あの独裁
的な曾祖父が手出し出来ないでいるほどのね。それを目の当たりにしていいん
ですか?」
麻木には正味、島崎が言わんとする実状が想像出来ていなかった。その結果、
麻木は当たり前に頷いた。
「今すぐ楓に会いたい。無事だとこの目で確認したいんだ」
楓を無事に取り戻す、それ以外の使命など持っていないし、それ以外の結末を
想像するわけにはいかなかった。あの遠い日。やみそうにもない雨の中、懐中
電灯の灯り一つを頼りに用水路を辿り、歩いたあの気持ちを思い返した。無事
を信じ、とにかく歩き、捜さないことにはめざす物は見つからないのだ。
「承知しました。御一緒しましょう」
島崎は物わかりよく頷いた。麻木にはそれが善意か否か、そこまで考えてみる
余裕はなかったのだ。

 

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