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 同僚、田岡 涼は風変わりな男だった。麻木は未だに彼がよくわからない。
今時の清潔そうな、きゃしゃで童顔、男の子のような容姿をしている。近頃の
良い男と言えるのかも知れない。しかし、性格はそれに似合わず、むしろ豪放
だった。彼は誰にも媚びなかったし、いつも大胆で、ほとんどのことに無関心
だった。そんな男がなぜ、自分のようなうだつの上がらない人間について来る
のか、麻木には皆目わからなかった。一度、他の人間と組めばいいのではない
か、そう試しに言ってみたのだが、田岡の返事はつれないものだった。
 彼は怪訝そうに小首を傾げ、鼻先で笑ったのだ。
『他と組む? 気乗りしないっすね。別に大した仕事する気もないし。大体、
当分、死にたくないっすからね。だって、他の人と組んだら巻き込まれて死ぬ
日が来そうじゃないですか? だけど、おやじさんとだったら、そういうの、
関係なさそうだから』
『なら、転職したらどうだ? 若いうちがいいぞ』
『それはオレに給料泥棒するなって嫌味、言ってんすか? けっ、自分だって
何十年も税金泥棒して来たくせに。あんたには言われたかないですね』


 車を運転しながら器用に飲み食い出来る田岡のハンドルさばきにはもう慣れ
て、この頃は腹も立たないし、身の危険も覚えない。未だ、一向に慣れないの
は彼の食欲の方だ。もぐもぐと口を動かしながら田岡は大抵の仕事をこなす。
つまり、彼は四六時中、何かを食べている。
 食うのは構わない。だが、ハンバーガーを頬ばる彼が別に楽しそうでもない
こと、それは多少気にはなっていた。それに食べている量のわりに太らないの
も不可解だ。
もう少しふっくらするはずなんじゃないのかな。

 気にはなる。だが、他人の麻木が口を挟むのははばかられ、気にしないよう
に心がけるしかなかった。今日も二つめのハンバーガーを食べ終えて、田岡は
ケチャップで汚れた指を拭いながら仕事の話を切り出した。
「本当に会えるんですかねぇ」
否定的な口振りだった。どうやら会えるはずがないと決め込んでいるらしい。
それはそうだろうがな。
「行ってみなくちゃわからんさ」
「無駄足だと思うけど。ま、せっかくおやじさんが珍しく仕事する気のようだ
から、付き合いますけどね」
田岡は、つまらなそうにため息を吐いた。 

 

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