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 その男は親友だったはずなのにも関わらず、豪田の死を悼んでいるようには
見えなかった。けらけらと笑いながら言ったのだ。そろそろ司の番だと思って
いたと。彼が言うには豪田は楓の、とりわけ足が好きだった。男はそう言って
笑った。
『麻木 楓の顔が好きだなんて言う奴は大したファンじゃないって、あいつ、
いつも自慢そうに言っていたよ。顔しか知らないからそう言うんだって。ま、
麻木って露出しない人だからさ。普通のファンじゃ顔と手くらいしか見ること
がないよね。でも、あいつ、司は親のコネを駆使してツァーにまでくっついて
行ったりとか出来たから、裸足くらいは見たことがあったんだろう』
彼はまるで面白がっているように見えた。
『生きていたら。きっとあいつ、いつか、やらかしていたと思うよ。だって、
いっつも口さえ開けば足、足、足、楓の足って呪文みたいに言っていたもの。
おかしかったよ、実際。何かに取り憑かれてんじゃないかって勢いでさ。ま、
オレは見たことがないから正直、わかんないことだけどさ。そりゃあ綺麗な足
らしいよ。これで本当に毎日、地面を歩いてんのかって驚くくらい綺麗なもん
なんだって。だから、司、“楓の足が欲しい”って、いつも言っていたよ』 
麻木は思い出した話への嫌悪感から身体中に寒気を感じ、込み上げて来る不快
感と戦いながら楓の寝顔を見守っている。四人が死んだ今になっても、その生
前の言動を聞き囓った、それだけでこんなにも戦慄するのだ。
だったら。
四人分の狂気に一人、さらされ続けていた当時の楓の恐怖は計り知れないもの
だった。想像しただけで麻木は身震いする。だが、楓はそんな感情をおくびに
も出さなかった。隠し通していた。
オレが気付かないほど、完璧に。
 静かな顔の下に隠し持ったそんな強さに敬服し、同時に身を削るような痩せ
我慢を強いていた自分に腹が立ってならない。もしかしたら自分は任せきりに
することで、楓に対し、父親に相談し難いと思い込ませる高い壁を築いていた
のではないか? だから楓は何一つ、父親に相談することも出来なかったので
はないか?
馬鹿な。
楓にとっては、オレだけが父親なのに。 
今こそ、楓を守ってやらなければならない。その思いは刻一刻、日増しに強く
なって、他に望みなど一切ないと言っても過言ではない。それなのに、それに
見合う成果は未だ何一つ、出せていなかった。意気込みだけが麻木の胸の中で
空回りを続けるばかりなのだ。
実際、何も打つ手がないんだ。
覚悟は揺るがない。しかし、麻木に実行出来ることは極めて少なく、打つべき
手は見当たらなかった。
オレじゃ、な。

 麻木にはとうの昔にやる気のない男、使えない男と言うレッテルが貼られて
いる。自業自得だと納得している。だが、今、そのつけはあまりに重かった。
オレなんぞに許された捜査と言えば、何度も何度も同じ現場を歩き回ること、
それだけだ。
遅々として進まない捜査とそのやり方に不満や不審を抱いても、口を挟む資格
など麻木にはなかった。
当然だ。ずっと税金泥棒だったんだからな。それに。 
 現場では誰一人、手を抜いてなどいなかった。誰しもが犯人を求め、必死で
自分に出来ることを続けている。しかし、あまりにも手掛かりは少なく、未だ
目的のもののその姿さえ、誰の目にも見えて来なかった。
捜しようがないじゃないか、見えないものは。

 

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