自分の口から飛び出した言葉に自分でも驚いたが、麻木にはもう、止めること など出来なかった。 「おまえはオレの子だ。生まれた時から、いや、生まれる前から、もうオレの 子供だった。おまえが生まれる瞬間がどんなに待ち遠しかったか、わかるか。 おまえが生まれた時、本当に嬉しかった。あの感激は今でも、はっきり覚えて いる。あんなに嬉しかったこと、忘れようがないじゃないか? オレはおまえ をおまけだなんて、思ったことは一度もない。おまえはオレの大切な一人息子 で、おまえが幸せになることがオレの」 「もう、よして」 冷めた声に息を呑む。あんな可愛らしさすら感じさせるような美しい声だった のに、たったの何十分の内に古び、磨耗して、その魅力を失ってしまった。 「嘘じゃない」 「嘘だよ。お父さんは時々、僕のこと、他人を見るような目で眺めていた」 「そんなことはない」 「ふぅん。じゃ、あれは僕の父親って人のこと、眺めていたんだ」 「違う」 麻木は認めなかった。認めるわけにはいかなかった。 「オレを信じろ」 楓は小さなライトの下で俯いている。光に透かされ、その髪は真っ赤に濡れて 見えた。 「僕だって、信じて貰えるものだって、いつも信じていたよ」 「謝る」 楓は、もう返事もしなかった。 相談する相手はいなかった。楓を自分達の息子以上に可愛がる兄夫婦にその 楓の痛ましい精神状態を告げるわけにはいかなかった。第一、彼らは楓を麻木 の実子と信じている。今更、血は繋がっていないと告白するのもためらわれた のだ。田岡は一々、御丁寧に頷きながら真顔で麻木の話を聞いてくれた。それ だけでも、陰鬱が少しは晴れて、随分、救われたような気がする。だが、全て を聞き終えた田岡は麻木には理解し難いことを言った。 「それ、妄想とは限らないんじゃないっすか?」 「何を言い出すんだ? 幽霊と呼ぶか、オバケと呼ぶべきなのかはさっぱり、 わからんが、どっちにしろ、でたらめだ。くだらん」 「幽霊はいないなんて、そりゃ、おやじさん個人の見解でしょ? オレも実際 に見たことはないけど、だからって、いないってことじゃないじゃないですか ?」 |