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「だって、ネッシーよりはまだ、幽霊の方がよっぽど実在する可能性があると
思うけどな」
「今時、ネッシーだなんて言ったら、それこそ馬鹿だと思われるぞ。どっちに
しろ、有り得ない。作り話だよ、どっちもな」
「何を言うんすか? 目撃者の数が桁違いじゃないっすか? それだけ幽霊に
は信憑性があるんすよ。クラスに一人は霊感の強い子がいたじゃないすか?」
「馬鹿らしい。ネス湖は一つしかないんだぞ。目撃者数とやらが違うのは当然
じゃないか?」
田岡はさも嫌そうなため息を吐く。
「聞く耳持たないんなら最初から相談しないで下さいよ。時間の無駄でしょう
が。大体、何すか、その態度は。そんな態度取るんなら、麻木 譲はウジ虫と
生卵が大嫌い、見たら泣いちゃいますって、住所と電話番号、顔写真も付けて
どっかの掲示板に貼り出しときますからね」
麻木はおとなしく頷いた。
「すまん」
寒風吹き荒ぶ公園の片隅で二人は缶コーヒーを飲みながら半ば、時間を潰して
いた。もう何かを捜すべく歩き回る場所すら残っていなかった。犯人は今頃、
皆で集まり、大笑いしていることだろう。
捕まらないなら、やり得もいいところだ。
「でもね」
田岡はふいに切り出した。
「霊感ってある人にはあるんじゃないのかな。うちの母親なんか本気で信じて
いますよ」
「何を?」
「霊感。目には見えない神秘の力ってやつ」
田岡は買ったばかりのパンをむしりながら、そう言った。
「女は占いや何かが好きだからな。あんなもの、スナック菓子と同じで、何の
栄養にもならないのに」
田岡は聞いていないように呟く。
「コネを掴んで、やっと超大物に会えることになったって、大喜びしていたの
に。おじゃんになって今、痩せるほどガッカリしていますよ」
超大物?
麻木は首を傾げた。
「何の世界の、超大物だって?」
「何でも捜し出せるって言うんで、有名な霊能力者ですよ。だけど、その人、
事故で亡くなったらしくて」
「霊感なんて、ありがたいものがあるんなら、何も事故なんて、よくある理由
で死ななくてもいいだろう。本物なら自分の身に迫る危険くらい察知出来そう
なもんだがな」
「予知能力じゃないもの、無理でしょ。捜し物専門の人なんだから。何でも、
どこにあるって、ぴたりと当たったそうなんすけどね」
田岡は会ったこともない霊能力者の死を惜しんでいるらしい。
「何でも捜せるって、お母さんは一体、何を捜して貰う気だったんだ?」
「さぁ、青春かな」
 田岡の冗談めかした笑みにつられ、麻木も小さく笑った。そんなぎごちない
笑みでも、笑えば、不思議と気は軽くなる。笑いながら、麻木はそう言えば、
もう何日も笑っていなかった。そう気付いた。土台、人間は一人では笑うこと
も出来ないのだ、とも。
 今、楓は一人ぼっちなのではないか? 心細い思いをしているのではないか
? 笑うことなど忘れているのではないか? 一刻も早く笑わせてやりたい。
そう思うものの、楓自身に父親に会う意志が無くなった今、彼を捕まえるのは
困難この上ないことだった。いるであろう場所、そのどこに電話を掛けても、
事務所の人間が出て来て、楓は外出しているとか席を外せないとか、とにかく
電話には出られないと言い張った。そのためにだけ、そこにいるような連中が
代わる代わる現れるのだ。本当に彼らの仕事は楓に掛かる電話の処理だけなの
ではないか? そう疑うほど、彼らは慣れて、素気無かった。
こうやって、あの四人もさばかれていたんだな。
そう思うほどに。 

 

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