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「あんな可愛いまいちゃんが打ち砕かれて、めちゃくちゃになって倒れている
なんて。信じたくなかった。うるさい野次馬達でさえ、近付こうとしないよう
な無惨な、一目で死体だって、もう死んでいるってわかる状態で。友達だった
僕ですら、飛び散った血や肉の欠片を見て、足がすくんだのに、ミーヤはその
身体の方へすたすたと歩いて行って。何をしたと思います?」
小鷺は涙で濡れて光る目を麻木に向けた。そこに浮かぶのは哀しみばかりでも
ないようだ。怒りにも似た光が浮かんでいた。
「ミーヤはね、素手でまいちゃんの身体だった血や肉の欠片を掻き集め始めた
んです。ちゃんと一人分ないとかわいそうだって。一グラムだって、ゴミには
したくないって」
小鷺は涙で喉を塞がれ、それ以上はすぐには続けることが出来なかった。
 彼の回復を待つ間。麻木はあの四つの惨殺死体を思い浮かべていた。刑事の
麻木も、いや、肉親でさえ卒倒しそうになるほど無惨な姿だった。だが、それ
でも飛び降り自殺した死体に比べれば、まだましだということは度々あるもの
だ。他人の身でそれを正視出来るだけでも大した度胸であり、ましてや、死者
への愛情だけで死肉を掻き集めるなどとは奇特と圧倒される思いがする。
それも、十九の男が。
十九なんて、子供みたいなもんなのに。
ややあって、小鷺は息を継ぐことが出来たようだ。ようやく再び口を開いた。
「葬儀の時だって。そりゃあ、正気でいられるはずもないけれど、半狂乱で、
およそ役に立たない家族に代わってミーヤがまいちゃんに洋服を着せ掛けて、
髪も直してあげました。葬儀屋さんが遺族じゃなくて、ミーヤに指示を求める
くらい、ミーヤだけがしっかりとしていた」
小鷺は自分のすすり泣きを自分で持て余しながら、それでも口を閉じることは
しなかった。
「ミーヤは毅然としていました。しゃんとして、いっそ神々しいくらいだった
んです。それなのに。僕はと言えば、まだ何が起きたのか正味、理解も出来ず
に、ただ茫然と突っ立っていた。見ない方がいいと葬儀屋さんに言われれば、
まいちゃんの顔を見ることもしないような有様でした」
「よって集って見ない方がいいこともある。ましてや女の子だ。尚更な」
麻木の慰めに小鷺は自ら、自分を咎めるように強く首を振った。
「いいえ、見るべきでした。だって、僕らは友達だったんですよ。どんな顔で
も、それが彼女の顔ならば、当然、見る、いや、会うべきでした。目を見て、
お別れすべきだったんです。でも、その時はなぜ、彼女は自殺したのか、自殺
にまで至ったのか、その理由がまるっきりわからなくて、それを知りたくて。
正直、他のことには頭が回らなかった。僕には何も見えていなかったんです。
ずっと後になって、彼女が散々、嫌がらせされて。一人で頑張って。だけど、
とうとう耐えきれなくなって自殺したんだとわかった時、後悔しました。それ
だったら何が何でも、一人で頑張ったまいちゃんの顔を見て、ちゃんとお別れ
してあげれば良かったと。あんなに悔やんだことって、他にはありません」
「どうして、そんな良い娘がいじめられるはめに?」
「妬みですよ。まいちゃんの恋人に横恋慕した女の。あんな女、女でなければ
殺してやりたいくらいだ」
穏和な小鷺の口から飛び出した物騒な言葉に、麻木は彼の怒りと悲しみの深さ
を見る。小鷺は思い出した怒りに耐えている様子だったが、それが落ち着くと
再び、麻木の相談へと話を戻した。
「親しいからこそ、自分の苦しみを告げられないなんて、辛い、哀しいことで
すよね。でも、それが多数派の真実だと思いますよ。僕もあの時、まいちゃん
はどうして一言、僕に、僕達に相談してくれなかったんだろうって、不思議に
思ったし、何も言ってくれなかったのは僕達には相談しても意味がないって、
頼りにされていなかったからなんじゃないかって、悩んだけれど、今はそれは
違うと思うんです」

 

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