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好物が異なれば、気を遣わなくとも当たり前に整然と実現出来ることがある。
各々はただお互いに己の好きな物に手を伸ばし、それを喜んで食べさえすれば
いい。それだけで彼らの仲は円満で、皆、幸せでいられるものだ。だが、そう
すると、トランプで見事に数字が並ぶ偶然が案外、頻繁にあるように、趣味の
異なる狂人が居揃ってしまう偶然が生じたと言うだけのことなのだろうか? 
偶然は有り得ないことではない。幼い楓が癇癪で奇跡を呼んだあの偶然に比べ
れば、大したことでもないのかも知れない。ただ。もし、犯人が三人だったと
して。どうして、三人は自分達の獲物にあの四人を選んだのか? 最初に青田
を、二番目に佐野を、三番目には朝倉を、そして四番目には豪田を。
 四人には性別や歳、恰好以外にもわかり易い共通点が一つだけあった。彼ら
はことごとく楓の知人であり、楓につきまとう変質者だった。それ以外に目に
付く共通点はないとも言えるような、際立った特徴とも言えるのではないか。
だとしたら。
あの四人が楓にとって迷惑な知人だったから、彼らを選び、惨殺し、そして、
わざわざその死体を楓のなじみの場所に捨てたとしか考えられないのではない
か? だが、なぜ、犯人達がそんなことをしたのか、麻木には見当も付かない
のだ。
 殺人自体は彼ら自身のお楽しみだ。楓には何の関係もない。だが、その被害
者の選び方は楓のためのようであり、その一方で遺棄の仕方は楓への嫌がらせ
に他ならない。楓の思い出の場所にばかり捨てているのだから。
どれもこれもわからないことばかりだ。
 麻木は重い息を吐き、ふと自分がいる空間に疑問を抱いた。奇妙な空間だ。
念入りに整えられた、しかし、大抵の人間にはくつろぐことの出来ない部屋。
誰の部屋だろう、麻木は一瞬、考えた。
そう言えば、小鷺の部屋に呼ばれていたんだ。
その小鷺はドアの所に所在なげに立っていた。
「何しているんだ?」
「考え事をしていらっしゃるようでしたから、どうしようかなって。邪魔して
はいけないし」
叱られでもしたように小鷺はしょんぼりと答える。
自分の部屋なのに、だ。
「悪かったな」
どうやら麻木は随分、長い間、しかめっ面で考え込んでいたらしい。
「いえ」
くたびれたような小さな返事。さて、この男には自分のストレスを解消する場
所はあるのだろうか。麻木は立ち上がりながら、ふいに彼にしては良いことを
考え付いていた。
「あんた、明後日の夜、暇かね?」
「ええ。もう冬休みですし」
小鷺は警戒心が少ない質なのか、あっさりと答える。麻木は生まれて初めて、
自分の頭が楓並みに上手く回転したような、良い気分になっていた。目的達成
のために既に一つ、手は打ってある。だが、もう一つくらい追加しなければ、
成功率は上がらないだろう。何しろ、向こうは難攻不落の城なのだ。
手は多い方がいい。それで、こいつのストレスも多少なりとも緩和出来れば。
一石二鳥じゃないか。
「何でしょうか?」
不思議そうに小首を傾げる小鷺に麻木は珍しく愛想笑いを返してやった。

 

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