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「守さんが節子さんにどんどん似て来たって言うのが真相ね。近頃は節子さん
の方も守さんに似て来て、この先、どうなるんだろうって、実は密かに楽しみ
なのよね」
「まさか、奥さんまでああはならないだろうけど」
田岡は大胆にも麻木の頭を顎先で指したようだ。
楓には下手なくせに。
「だけど、よっぽど楓さんが可愛いんすね、あの二人。子供がいないんすね、
きっと」
田岡が推理する一般論に、まち子は小さく吹き出した。その小さな噛み殺した
笑い声には微かに辛味があったように、麻木には感じられた。
「いるわよ。あそこの一人息子は弁護士の先生なのよ。ま、確かに存在が薄い
のは否めないけれど。楓ちゃんより三つか、四つ上よね」
節子は結婚が早かったのだ。
「へぇー。いかに実の子でも並みの人じゃ、楓さんには敵わないってことか。
そりゃ、親戚の子でも楓さんの方が可愛かったっしょ。土台が違うもんな」
「そうね。そんなことより、後でさ、あのお二人にはもっと驚かされるわよ。
ね、旦那」
「ああ」
麻木はまち子が何を言っているのか、すぐに理解出来た。それはこの打ち上げ
の恒例行事だからだ。それを示してまち子が本当に言いたいことが鈍い麻木に
も薄々、わかった気がして、仕方なく面白くもなさげに頷いた。賛同するのも
気が引けたからだ。
「何すか?」
きょとんとした顔で麻木とまち子とを見比べる田岡に、まち子は意味ありげに
微笑んで見せた。
「楽しみは取っておかなくっちゃ。あとのお楽しみ、よ」
まち子の腹の中にも不当な意地悪を続ける節子への不満や敵対心があるらしい
のだ。それがいくらか麻木には愉快でもあった。やられっぱなしではまち子が
不憫と言うものだ。彼女の方が立場が弱いのだから。
義姉さんの事情はわからないが、な。

 次いで現れた客は小鷺だった。しかし、麻木が事前に予想した図とは違い、
彼は独りぼっちで、楓に渡されたと言う、楓手書きの地図を持って、いささか
心許なげな面持ちで入って来た。先日。彼には今日、荘六に食事会に来るよう
に麻木が言った。強く誘いはしたが、場所は言わずに。楓と一緒に来てくれと
敢えて、そう言った。楓なら同じマンションの住人をむげにはしないだろう、
連れ立って一緒に来るだろう。そう思ってのことだったのだが、実際は極めて
あっさりと一人で行くように言われて、小鷺は渡された地図一枚を手に、恐る
恐る見たこともない世界へ足を踏み入れて来たらしい。麻木を認めると小鷺は
いかにも安心したらしい様子を見せた。きっと麻木が想像するよりも小鷺製薬
のオーナー一家は特殊な世界の住人で、その一人息子である小鷺にはおでん屋
すら未知の怪物であり、全く縁がなかったのだろう。麻木に紹介され、小鷺は
ようやく居場所を得たような晴れやかな笑顔を浮かべ、挨拶を交わしている。
彼は知っている人間の近くにいたがる質なのか、麻木の隣に腰掛けた。

 

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