「皆に似ていないと言われる度、オレは不安だった。いつかばれて、おまえを 奪われはしないかと不安で堪らなかった。今だってそうだ。例え、おまえの、 本当の、実の父親であっても渡したくなんかなかった。どこの誰でも同じだ。 横取りされたくなかったんだ。おまえはオレの息子で、他の誰かの子じゃない んだからな」 楓はおとなしく、ゆっくりとした瞬きを続けている。その反応にわだかまりが 解けた様子は見えないが、麻木には自分が正直になっている今なら、楓も本当 のことを答えてくれるのではないか、という期待が生じていた。 「おまえは、その、お父さんに会ったのか?」 「ううん」 「会いたいか?」 楓は首を振って否定し、次いで苦笑いした。 「わざわざ死んでまで会いたくないよ」 「死んで、いるのか?」 こくんと頷いて、その弾みにか、楓はようやく気が楽になったようだ。彼の方 から初めて、口を開いたのだ。 「代理だって人が来た時、そんなことを言っていたよ。でもね、会ったことも ないんだから父親じゃないよ。それにその人は、お母さんと別れて、他の人と 結婚したんだし。娘が一人いるって、聞いたけど」 楓には義妹がいるのだ。 「その人には会ったのか?」 「会わない。無理して会う必要もないでしょ? 縁があれば嫌でも会うもの。 それに」 「それに?」 「その人、何も知らないらしいから。だったら何も知らない方がいいでしょ、 自分の父親と自分の母親が結婚する前のことなんて」 楓は口を噤み、それから自身を勇気付けるような、そんな作り笑いを浮かべて 見せた。 「その人は僕の父親じゃないんだよ。だから、お父さんが心配するようなこと は何もなかったんだ。だって、その人、僕がこの世にいることも知らなかった んだから」 楓は笑い飛ばしたかったのかも知れない。だが、突然、彼の表情は一変し、 両目いっぱいに浮かび上がった涙が行き場を失って、溢れ落ちるのにさして、 時間はかからなかった。楓は一瞬、自分の涙に驚いた表情を見せてしまった。 本当にうっかり父親に見られてしまったのだろう。楓は明らかに狼狽した表情 を見せた。そして、止めることの出来ない涙を楓はとうとう両手で覆い隠した のだ。そうするしか術もなくなって。そんな弱い楓を初めて目にした麻木の方 もうろたえてしまい、掛けてやるべき言葉が思い浮かばない。だが、それでも 何とかして守ってやりたいし、少なくともそう思っていることだけは伝えたい 。麻木は思わず楓を抱き締めていた。麻木は自分の奇怪な行動に驚きながら、 しかし、すぐに息を呑まざるを得なかった。何年ぶりに触れる身体だろう? ___何で、こんなに痩せているんだ? 目で見て、これくらいと見積もっていた力がその身体には残っていなかった。 濡れたまま放っておかれた髪も、背中も、腕も、胸も冷たくなっていた。麻木 の触れた所から冷たさが伝わって来るにつれ、楓自身の寂しさがようやく麻木 にも理解出来た気がする。楓の孤独は誕生と言う根元から来ていたのだ。 「ここに、いても、いい?」 ふいに聞き取れないような弱い声で楓はそう尋ねて来た。 |