真夜気はむくろのような目で麻木を見やった。 「あれもこれも知りたいなんて欲張ったら、肝腎の望みが叶わなくなる。それ でもいいのか?」 そう問われ、麻木にはもう、それ以上、何かを聞き出そうとは思えなかった。 真夜気のやり方など所詮、知る必要のないことだ。ただ、彼の勘か、何らかの 技術か、某かを、いや、その見立てた結果のみを信じる他ない。他に縋るもの などないのだ。 「いいか? 誰にも口外してはいけない。今の運勢が変わってしまうからな。 知らん顔して、楓さんの無事だけを願っていればいい」 「わかった」 真夜気はすっと表情を緩め、普段通りの屈託のない笑みを浮かべた。 「おじさんは素直だね。聞き分けがよろしい。大変、結構だ」 「あんたが良いことを言ってくれたからだ。お陰で随分と気が軽くなった。楓 に累は及ばない。そう信じ込んでいられれば、幸いだ。それに何より、人様の 親切はありがたく受け取らなくてはならないからな、いらん口答えはせんよ」 「それはいい」 だが、真夜気は聞かれてもいないミーヤの知人、老人の遺族の話を持ち出して まで自分の持つ能力の“精度”を示し、その上で楓は無事だと教えてくれたの も同然なのだ。よくよく考えてみると、そこには何らかの意図があると考える べきなのではないか? ___なぜだ? ひけらかすような趣味はなさそうだし、金にもならないのに なぜ、わざわざ? 「おじさんの方こそ、オレに親切にしてくれたから、だよ」 麻木はギョッとして真夜気を見た。真夜気が麻木の頭の中の疑問に直接、答え を返して来たように感じられたからだ。 ___偶然なのに。 「いいや。おじさんが相手をしてくれて、オレは本当、救われている。だから だよ。ちょっとだけお返ししてあげようと思った、それだけの話。だって毎日 一日中、楓さんの心配ばっかりしていたら、身が保たないだろ?」 真夜気は麻木を安心させるためにわざわざ自分の力を示し、楓は無事だと予言 して見せたのだ。では。本当にそんな力があるのか? 麻木の驚愕に真夜気は 表情を変えなかった。 「オレは妹に比べれば、ささやかだけど、それでもこんな力がある。だから、 ずっと友達はいなかった。黙っていれば、ばれないもんだと思われがちだけど な、実際、そんなふりをし続けるのだって苦痛なんだよね。例えて言うなら、 そうだな。目が見えるのに見えないふりをするのと同じ原理だからな」 麻木には到底、理解し得ない世界だが、それは否定の出来ない世界にもなって いた。 「オレは妹達、血を分け、魂を分け、境遇を分け合ったあの二人だけを頼りに 生きて来た。両親は片方は逃げ出していなくなっていたし、残った半分だって クレイジー野郎だからな。いてもいなくても同じようなもんだった。爺さんに は端から何の期待も持てないし。彩子は優しいけど、とうに四倉さんちの嫁で 元々、こんな力もないからな。オレ達を百パーセントは理解出来ないだろう」 麻木は真夜気の血を吐くような告白に胸を詰まらせる。その妹は二人とも回復 の見込みもない状態にある。その苦しさは麻木の想像を絶するものだろう。 「医者には諦めたらどうかって言われている。死体と変わらないんだとさ」 「そんな」 「言われるまでもない。オレだって、医者なんだ。そんなことは百も承知して いる。数値を見れば、一目瞭然だからな。だけど、例え、心臓が止まっていた って、もしかしたら、また息を吹き返すんじゃないか、目を開けるんじゃない かって、そう思うだろ、家族なんだから。アケビもコダマも若くて、見た目は 眠っているようなものなんだ。諦められない。そんなこと、絶対に出来るわけ がない。オレの一存で息の根を止めるなんて出来っこないじゃないか」 一息に叫び、真夜気は息を吐いた。 「あの連中が、スタッフが親切で言ってくれていることだってことはわかって いるつもりだよ。いくらでもぼれる相手だと知っているのに、これ以上は無駄 だ、やっても効果はないって言ってくれるんだからな。ある意味、ありがたい 話だとも思うよ。だけど、どうしたって、何度見たって、死体だとは思えない んだ。こう言っちゃ悪いけど、未だ人間の形もしていない胎児だって、死んだ ら、あんなに悲しいんだ。あの二人なんて、二十何年ずつの長い付き合いで、 妹で、友達で、同じ力を持つ仲間だったんだ。腐り始めでもしなければ到底、 諦められない。死体とは認められないよ」 「六階の、従兄は何て、言っているんだ?」 「何で、いきなりミーヤが出て来るの?」 |