真夜気は訝しそうな様子で麻木を見据える。そこには不快感が露わとなって いたし、問うた麻木の方もそれは当然の反応だと思った。 「いや。どうも金銭的なことは彼が負担しているようだから。勿論、あんたの 気持ちはわかるつもりだが、生きている者の負担になるのは病人にとっても、 その。辛いことなんじゃないかと思ってな」 「ほう。さすが年の功。うまいこと、言うね」 真夜気は両目に更に強い不快げな色を浮かべた。 「確かに一般家庭相手なら、その手のセリフは効果的な殺し文句になるだろう ね。そこまで言われれば、家族も御遺族になろうって覚悟を決められるのかも 知れない。だけど、幾らかかるって言ったって、ミーヤは殺せとは言わない。 あいつは超人的なくらい良い奴だからな。無駄な治療費だと知っていたって、 それを惜しむようなことはしない。出来ないんだよ、そーゆーことが」 真夜気は明らかに腹を立てていた。麻木は自分の言い方があまりにも拙かった と気付く。真夜気にとってはかけがえのない妹達。それを回復の見込みがない なら殺してしまえと言ったに等しい言いぐさなのだ。そう自省出来たが、麻木 とて決して、そんなことが言いたかったわけではなかった。もし、回復の望み がまるでない植物状態なら、いつかは踏ん切りを付けなければならない。その 時を先延ばしにし続ければ、妹達が哀れなのではないか、そう言いたかったの だ。若い娘が他人の世話にならなければ、髪すら梳けず、顔も拭えない。それ どころか、床擦れと戦い続けなければならない日々を過すなど、あまりに酷で あり、いっそ、残酷な仕打ちとなっているのではないか? そう考えたのだ。 二人が真夜気にとって大事な妹達なら、彼女達にとっては真夜気こそ、大事な 兄だ。回復の望みがないまま、その兄の負担になり続けることは心苦しいこと に違いない。だからこそ、真夜気自身の幸せが大切だと、麻木は考えたつもり だった。 だが、その一方で麻木はそんな理屈が通じるはずがないことも知っている。 もし、これが楓の話だったなら。脳死と言われて自分が納得するはずがない。 どんな名医に植物状態だと言われようとも、死んだと諦めるはずがなかった。 以後の治療は全て、無駄だと言われても、生命維持装置を外そうと勧められて も、父親が承知出来るはずがない。途方もない治療費の心配さえなければ、肉 親は間違いなくせめて、現状の維持を望むだろう。心臓が頼りなくも身体中に 血液を巡らし続けている内は、家族だけは回復を期待出来るのだ。今は無理で も、半年か一年先には画期的な研究結果が華々しく発表されるのではないか。 数年も待てば、臨床においてもめどが立つのではないか。家族なら、そう思う のは当然だ。兄である真夜気もただ、そう夢見、回復を願っているに過ぎない のだ。 「すまん。申し訳ない。オレが至らなかった。そんなつもりではなかったが、 もう少し考えて口にすれば良かった。いや、それも違うな。どう言っても失礼 に変わりはなかった。勘弁して欲しい」 「わかっているよ、そんなこと」 真夜気は鋭く吐き捨てる。 「オレだって、あんたに腹を立てているわけじゃない。オレはね、不甲斐ない 自分に憤っているんだよ。普段、大口叩いているくせに妹達には何一つ、して やれないんだからな。せめて、こうなるに至ったあんな事故を起こした犯人を 捕まえてやりたいのに、それも出来ないから腹が立つんだ。本当は捜せるはず なんだ。それなのに感情がコントロール出来なくて捜せない。不甲斐なくて、 情けなくて、居た堪れないんだ」 真夜気のいらついた様子を見据え、麻木は一つ、疑問を抱く。占いとは怒りに 呑まれていては出来ないものなのだろうか。 「おたくの占いにはそんなに精神統一が必要なのかね」 「我が家のは占いとは違うから。カードとか水晶玉とか、そんな視覚的な道具 は使わない。もっと、ずっと精神的なものだ」 「精神的?」 「説明し難い話だけど。感情に左右され易くて、自分を制御出来ないことには ぶれて良く見えないんだ。だから、身内や自分のことはほとんどわからない。 人間って、自分や家族のことだとつい、悪いことは見ないようにしちまうもの だろう? 例え、無意識下でも」 真夜気の話すシステムはわからないが、彼が言っている内容には賛同出来る。 「そりゃあ、な」 自分や家族が事故に遭う、災難に巻き込まれる、そんな見たくない未来は多い はずだ。 「それにミーヤが、あいつがあんまり優しいから余計に腹が立つ」 「優しいのに何で、怒るんだ? 腹を立てることじゃないんじゃないのか」 |