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 真夜気は心底、その来客を鬱陶しいと感じ、訪問自体に憤っているらしい。
そんな不快げな形相と化していた。あまりに煩わしい事態に対処すべく、麻木
に愛想良くすることも、小鷺に一睨みすることもままならなかったようだ。
「ミーヤに何の用、押し付ける気か知らないが、どうせ、また馬鹿馬鹿しい話
だろう。猫がいなくなったとか、はした金貸してくれとか、そんなのばっかり
だ。逆剥けが出来たって、そんな程度の話で泣きついて来るなって言うのに。
問題があるなら、自分達の本家の大久保に言えって言うんだよ。仲間割れして
いるからって、何でもかんでも気の良いミーヤに押し付けやがって」
真夜気の憤りは並大抵のものではないようだ。
「厚かましい。図々しいにも程がある」
それに呼応するように通常、温厚な小岩井までもが険しい表情を浮かべ、口調
もきついものに変えていた。
「仰せの通り、手紙の類いはミーヤ様の御目に触れないよう、止めてあります
し、電話も取り次いでおりません。それではもし、こうして直接お出での場合
も、お通ししなくてよろしいのですね」
「ああ。問題ない。ミーヤを便利屋にされてたまるか」
「かしこまりました」
それは小岩井にとっても期待通りの主の指示だったのではないか。麻木がそう
勘ぐるほど、小岩井は大真面目な顔つきで頷き、真夜気に一礼して、速やかに
下がって行く。一刻も早く迷惑な来客を追い払う意気に燃えているらしい様子
が背中に窺えるほどだった。
「おい、待て。勝手に閉めるな。おじさんも一緒に降りるんだぞ」
「は? おじさん?」
真夜気の叱責が何を指してのものか、一瞬、本当に小岩井にはわからなかった
らしく、彼は辺りを見回した。それで初めて、麻木と小鷺の姿が彼の視野にも
現れたらしい。小岩井には麻木と小鷺の姿がそれまでは見えていなかったよう
な、そんな反応を見せた。彼はさも驚いたような表情を浮かべた後、慌てて、
愛想笑いを作って見せたのだ。
「こんばんは。降りられるのですね、それではどうぞ、中へ」
___ま、御愛嬌ってもんだな。
そのまま、エレベーターに乗り込み、四階で小鷺とは別れた。その後、小岩井
と下まで降りた麻木は玄関先に横付けされたままの黒塗りの車をちらりと盗み
見、その脇を通り過ぎて行った。黒塗りの車の中が見えないように、麻木には
関係のない話だった。小岩井がその車の方へ歩み寄るのを麻木は気にも留めず
に帰路に就いていた。

 

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