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考えてみる。何か、見落としていることはないのだろうか。犯人は楓の近く にいる。少なくとも、麻木はそう信じている。だが、もし、そうなら。それは 同時に犯人が、犯人達のいずれかが四人の被害者の身近にいたということでも あった。四人は傍迷惑な存在ではあったが、楓の知人には違いなかったのだ。 正直、四人に関してはもう、靴底と同じに調べ尽くし、何も残っていない状態 だ。とは言え、精神に少しばかり異常をきたしているに等しい楓を追求しては 酷だし、第一、まともな見解は期待出来ないだろう。そうなると他に当たり前 に返事の出来る関係者を当たるしかなかった。 ___何度でも、な。 麻木はまず、カメラマン、九鬼を訪ねた。幸いなことにスタジオには彼本人 しかいなかった。 「今日は休みなんだろ。熱心なんだな」 麻木が話し掛けると、九鬼はどこかひねた笑みを浮かべて見せた。彼は丹念に 機材をチェックしていたようだ。プロとして人任せには出来ない作業なのかも 知れないが、もしかすると、九鬼には仕事しか生き甲斐がないのではないか。 仕事をしている時にだけ、生きている充足感が味わえるのではないか。素人で ある麻木がふと、そんなことを思い付くような雰囲気を九鬼は漂わせていて、 それはどこか、追い詰められているような切迫感にも似て見えた。 「言っておくけど、オレには警察が喜ぶような目新しいカードなんかないぜ。 今更、捜査の協力なんぞ、期待されてもな。あらかた、とっくに喋っちまった よ。つまりは御存知の通り、それっきりなんだよ、おじさん」 「いいや。贅沢は言わん。どんな雑魚カードでも構わない。オレは今、誰かと カードを交換したくてたまらない、そんな気分なんだ。何しろもう、誰も相手 にもしてくれなくてな。人恋しいくらいなんだ」 九鬼は苦笑いして、抱えていたカメラをテーブルの上に戻した。 「コーヒーくらいなら出してやるよ。何せ、麻木 楓のパパ上だからな。丁重 にもてなさないと罰が当たる」 冗談めかした口調に軽い揶揄を感じる。麻木は口を開いた。 「楓ともめると、そんな不利益を被るものなのかね」 九鬼は肯定するとも否定するともつかない笑みで麻木を見やる。 「だって、マスコミも楓には触れたがらなかっただろう? あいつ本人はどう だか知らないが、あいつの後ろにはヤバイのがいる。それが定説だからな」 「親族にそんな心当たりは一切、ないが」 知っていると言いたげに九鬼は鼻先で笑った。 「噂だからな。事実かどうかなんて、あんまり関係ないんだろう。事実として はそうだな。おたくの親族がどうとかじゃなくて。ほら、楓が住んでいるあの マンション」 「マンション?」 「そう。あそこにはヤバイのが住んでいるって、話でね。それが効いているの さ。昔、楓を追っ掛けていたカメラマンが深入りし過ぎてボコボコにされて、 挙げ句、やけに早死にしたって有名な事実があるんだよ。で、誰も麻木 楓を 狙わなくなった。誰だって、命が惜しいからな」 「楓がやったわけじゃないだろう」 「だったら、事務所かも、な。あそこの社長はだいぶ馬鹿だけど、母親の方は やり手だからな。ドル箱の楓を守るためなら人ぐらい殺すよ、マジで」 人ぐらい。人よりも殺し難い生き物が他にいるのか、麻木にはわかりかねた。 無能とは言え、未だ一つでも多く人の命を守るために存在する稼業に従事して いるのだ。頷くわけには行かないだろう。しかし、その辺りを差し引いてみて もやはり、九鬼の言いぐさには頷きかねた。 麻木はどう返してよいものかわからず、視線を彷徨わせてみる。すると九鬼 の事務所は案外、雑然としていると気付いた。楓の几帳面ぶりから考えると、 まるで泥棒でも入った後のような有態だ。これでは本当に侵入され、盗まれて いても、気付かないのではないか。被害届けは迅速に提出してもらわなくては 困るのに。 「なぁ。楓の昔馴染みだから一つ、余計なことを言わせてもらうんだが。もう 少しくらい、片付けないと。これじゃ、泥棒が入ってもわからんだろう?」 「ああ。紙の類いはどうでもいいんだよ。カメラはちゃんと保管してあるし。 それに貴重品はここには置かない。ネガとか大事な物は絶対、紛失しない所に 預けてあるのさ。おたくの楓のフィルムも、な」 「賢明だな」 |