真夜気は一人、自分の見解を反芻するように考え、その上で納得したらしく 頷いた。 「うん、似ている。凄く良く似ていると思う。だけど、オレは断然、ミーヤの 方が好きだな。顔のレベルが一緒でもさ、ミーヤの方が髪が綺麗なんだよね、 圧倒的に。おじさんももし、一目でも見ることがあったらああ、これがミーヤ なんだってわかるくらい、綺麗なんだ。だから、いくら酔っぱらっていても、 二人を見間違えたりなんかしないと思うよ。あいつの髪、スペシャルだから。 チャバネゴキブリみたくピッカピカ光ってんだもん」 真夜気は自分で言って、その内容に苦笑いした。 「こんな例え方したってミーヤにばれたら、怒られるな。あいつ、異常な綺麗 好きだもん。やっぱり、ゴキブリは拙い例えようだよなぁ」 「そうだろうな」 麻木も簡単に同意する。ミーヤは楓以上の綺麗好きかも知れない、と思うから だ。確かにここは楓のキッチン同様に整備され、維持されている。だが、広さ と機器の充実ぶりを考えれば、ミーヤの方がはるかに綺麗好きと言えるのだ。 銀色の大鍋はどれもこれも鏡のように磨き上げられ、いつもの位置にちゃんと 置かれているらしい均整が取れている。一つたりとも自分の定位置から外れた ままにされたことなどなさそうな均衡なのだ。ここまで来ると几帳面の領域を 越え、あからさまに病的なものが見え隠れして見えた。 「確か、友達の所に行っていると言っていたかな」 真夜気はぐつぐつ煮え立つ大鍋の湯の中にパスタを放り込む。彼は真顔で踊る 湯面を見据え、懸命にタイミングを計っている真っ最中のようだ。 「うん。確かにあれは友達、だな。友達には違いない。で、ああ。やっと用事 が終わって、あいつ、ぐったりしているらしいよ。安堵して、余計な疲れまで 出て動けないんだろう」 「だろう、って。どこにいるんだ? ここじゃないんだよな」 「ミーヤはマンションって、幾らでも持っているから。その内のどれかにいる んだろうよ。オレも全部は知らないから。土台、一日の半分は病院詰めだし、 彩子の顔を見に行くって大役も仰せつかっているし、な」 真夜気は仕方なさそうに微笑んで見せた。 「ミーヤはオレなんて、基本的にはお子様だと思っているからな。仕事絡みの ことは一切、教えてもらえないし、個人的な財産の仔細なんてノータッチだ。 ましてや、大変なこととか、精神的なことなんかは。いっそ、犬か猫なら愚痴 ぐらいはこぼしてくれたのかも知れないけどな」 真夜気はブロッコリーを洗い、大まかに切ると、先の密閉容器の方をレンジに 入れ、タイマーを合わせる。 「二つだから、これくらいかな」 「小鷺は知っているのか? さっき会った時、えらく御機嫌だったようだが」 ミーヤが臥せっているのなら、あの明るい表情はそぐわないのではないか、と 麻木は訝ったのだ。 「さぁね。プールの日は嬉しいらしいから、それではしゃいでいたんじゃない の」 「プール?」 「正確にはジム通い?」 真夜気は馬鹿にした調子で続ける。 「あんな奴、大嫌いだからなるべく考えないようにしているんだ。オレはね、 金払って汗かいて、それで悦に入っている奴らなんて、大嫌いなんだよ。汗を かきたけりゃ、働けばいいじゃんか」 彼の一族の家業、占いが汗をかく肉体労働だとは思えないが、麻木は口出しは しなかった。そんなことは真夜気自身、承知している。恐らく真夜気は小鷺の することなら、一から十まで一切、全てが嫌いだから、そう言うに過ぎない。 健康促進のためのプール通いも小鷺がしているから気に入らないだけなのだ。 真夜気は何でもないような調子でパスタを茹でている鍋の中にブロッコリー を放り込む。普通ならば、色移りを嫌い、別鍋で茹でそうなものだ。そして、 こんな無造作な真似をするからこそ、楓以上に神経質であろうミーヤには子供 と見なされるのだろう。果たして、茹で上がった麺とブロッコリーは同系色の 濃淡となっていた。もっとも今日、それを振舞われる麻木自身、そう神経質で もないし、パスタが心持ち緑がかっている程度のことは何でもない。腹が痛む ようなことではないし、むしろ、真夜気のそんな大雑把なところが好ましくも 映った。男なら、これくらいが普通なのだ。チン、とレンジが鳴って、真夜気 は密閉容器を取り出し、それから二つの皿にパスタを盛る。その際、さすがに 皿の端に置いたブロッコリーを避けるようにあの密閉容器からたっぷりとした ミートソースを掛けてくれた。 「ブロッコリーはマヨネーズでいい?」 「ああ」 厨房に続く小さなダイニングスペースに皿を運び、真夜気は麻木を手招いた。 「こっちでいいよね。あっちは広くて嫌なんだ、家にいるみたいで」 真夜気が顎で指し示した先には、大層な両開きの扉が立ち塞がっていた。 |