[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。
疑問を感じつつ、しかし、麻木は取りあえず、前進することにした。一つの 疑問にばかり固執もしていられない。 「他に心当たりはないか? 今時、一人だけってことはないだろう」 「そうですね。あと二人。一緒に食事したり、そういうデートはしている子が いましたね。でも、あれは事務所の都合が半分で、向こうはもちろん、大乗り 気だけれど、楓ちゃんは本でも読んでいる方がいいって、そんな程度でした。 マキって人と一緒にいる時みたいな楽しげな、恋人同士らしい様子は見たこと がなかったから、きっと楓ちゃんには特別な相手とデートしているって意識は なかったんだと思う。仕事の延長のような感じでしたね、義務的な」 あと二人、麻木はそう聞いて、思わず唸った。楓は以前に自分で間北 恵留の 後、二人と付き合った、その二人は交通事故死していると言ったではないか。 二人は次々に轢き逃げされたのだと。麻木は楓の神経は摩耗していて、自分の 話す内容が事実か妄想か、判別が付いていないのだと思い込んでいた。息子の 曲がりなりにも交際相手が、二人もの女性が続け様に同じような死に方をして いるなどとは認めたくなくて、彼女達の存在そのものを最初から否定しようと していたのかも知れない。端から全てを否定する方が、麻木にとっては気楽な ことだったからだ。しかし、もし、二人が過去に実在し、やはり、交通事故死 していたのなら。楓は一つの嘘も吐いていなかったことになる。妄想を信じ、 その結果、嘘を吐いていたのではなく、信じ難い事実を喋っていただけのこと になるのだ。 「その人達に会えるか?」 麻木の質問に廉は鈍い表情を返した。麻木が何を企んで言い出したことなの か、測りかね、戸惑う様子が覗える。それも致し方ないことだろう。今、麻木 に息子の、それも随分と昔の恋人に面会を求める理由はないはずだ。その様子 を見て、麻木は言い繕った。どうしても今の内に楓の神経が作り話をするほど 傷んでいるのか、否かを確認しておきたいし、そうする必要があると思うから だ。間近に迫った今井の安否を知る、その時のためにも。 「ああ。何と言うか、楓の仕事上の関係者に女性は少なかったから。だから、 もしかしたら、今までとは違う視点で事情が聞けるんじゃないかと思ってな。 捜査は知っての通り、行き詰っているし、事務所や仕事仲間からはもう新しい 話は期待出来そうもないし」 納得したように廉は頷く。 「でも、古い話ですよ。最近の楓ちゃんと親交はないわけだし」 「それでもいい」 「三人の顔はわかるけど。でも、連絡の付く人はいないな」 廉は残念そうに言う。 「皆さん、亡くなっていますから」 麻木は廉の人の良さそうな、いかにも悼んでいるような顔を見た。腹の内は わからない。嫌いだから、そうとしか見えないだけなのかも知れない。だが、 麻木には廉が他人の死を一々、悲しむようは見えなかった。それはともかく。 楓の恋人だった女性は二人共、楓の話した通り、既に死んでいた。ならば、 その死亡した理由も確かめておかなければならない。それが最も大事なことと も言えるのだ。それに、皆さんとは一体、どういうことだろう? 楓が二人と 言ったにも関わらず、なぜ、第三者の廉が皆さん、つまり、三人と言うのか。 「まさか、三人全員か? だって、未だ若いだろう? どうして、一人なら、 そんなこともあるかも知れないが、皆さんと言ったら」 「ええ。本当に不運ですよね。二人も交通事故で立て続けに亡くなるなんて。 それで楓ちゃんは恋愛に恐怖感を抱いたのかも知れませんね。そりゃ、怖くも なりますよ。自分のせいで死んだんじゃないかって、疑っても仕方ないですよ ね、あんな立て続けにじゃ」 麻木は廉のその解釈には賛同出来なかった。どんな偶然があったにしても、 断じて楓の非ではない。楓のために誰かの人生が不運な形で終わるとは到底、 思えない。例え、何人立て続けに死んでいようが、それは結局、不運な偶然に 過ぎないのだ。楓に非はない。麻木は混乱する頭の中を無理に整理して、そう 自分に言い聞かせ、改めて考える。今、重要なのは楓の話の全てが事実かどう か、だ。楓の話通り、二人は交通事故死していた。だが、廉は三人共、死んだ と言う。また食い違っている。その違和感を胸に更に考えてみた。では、あの 間北も、残り二人同様に死んだと言うことなのだろうか。しかし、そればかり は楓の口からは何も聞いていない。 「マキさんだったか、彼女は? 彼女も交通事故で死んだのか? 交通事故で 二人が死んだと言われても、誰のことなのか、オレにはわからんよ」 |