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「こっち側のエレベーターの修理は話が簡単なんだけど、六階用のヤツはそう
はいかないらしくてさ。あっちの方が壊れがちで若干、危なっかしいから急を
要すんだが、この際、全部さっぱりと新品に取り替えた方がいいって、業者は
言うし、ミーヤは元の形は変えたくないって言うし。オレは間で一苦労だよ、
ったく」
苦にしたふうなど、さらさら無く真夜気はそう言った。麻木は腹の内で苦笑い
する。苦労をしているのは口先だけで、真夜気の腹は決まっている。どうせ、
ミーヤの意向を最優先にする。それは火を見るより明らかだった。
「その従兄はどうしているんだ?」
「ああ。今、屋敷、オレ達の実家ね。そこの改修工事に取りかかっているんだ
よ。調度品を運び出すのにミーヤがいないことにはわけがわからなくなるから
な。それに付きっ切りで陣頭指揮しているよ」
「そんなに大容量なのかね」
「まぁね。取り敢えずの預け先ごとに仕分けするのも一苦労さ。量は多過ぎる
し、金目の物、壊れ物ばっかり。爺さんは勝手なことしか言わないし、親父は
ミーヤの顔しか見ていないし。さぞかし至福の一時だろうよ、日柄一日眺めて
いられるわけだから」
一体、どんな父親なのか、見てみたい気もする。
___娘二人は入院中だと言うのに。
「妹達がいない間に改修工事を済ませておこうっていうアイディア自体はあの
爺さん的には結構なもんだったんだけど、皺寄せは結局、全部、ミーヤ一人に
行っちまうんだよね。ま、頭数が揃っていたって、結局はミーヤが頼りのダメ
人間の巣窟なんだけど」
「そんな大規模な工事なら、しばらく住めないだろう。その間は皆さんでここ
に来るのかね」
「いや。ミーヤの持っているマンションにバラバラに居候する。同じ所に三人
一緒になんか、三十秒といられない。アホの親父はともかくも。爺さんと一緒
だなんてオレ、一秒だって嫌だもん」
真夜気は心底、嫌そうに唇を尖らせた。
「強権的かね、昔の人は」
「独裁的、だね、ありゃ」
独裁的という一言に力を込めることで真夜気は不満を表した。
「ミーヤがかわいそうだ。我が家は何もかも、それこそ、一から十までミーヤ
頼み、ミーヤがいなけりゃ、一日だって回転しない。とっととそれを認めれば
いいものを。何だよ、あの態度」
真夜気には憤りのぶつけ先がないらしい。
「あんなに一所懸命やってくれる人間を何で、大事にしないんだ? いいや、
大事にしないどころか、ないがしろにしやがって」
真夜気でさえも、面と向かって自分の意見なり、不服を言えない相手がいるの
らしい。だが、それならそれで父親にでも仲立ちしてもらえばいい話なのでは
ないか。真夜気の父親は風変わりとは言え、ミーヤを好きなのだ。そのミーヤ
のために骨を折るのなら、苦にはなるまい。
「お父さんが一言、言ってくれればいい話なんじゃないのか。親子なんだから
文句も意見も言い易いだろ? 孫なら、この若造がって、不愉快に思うのかも
知れないが」
真夜気はじっと、何やら言いたげに麻木を見据える。
「何だ?」
「あんた、勘違いしているよ。爺さんはオレじゃなくて、オレの親父の祖父。
すなわち、オレから見たら曾祖父だ。だから、尚更のこと、親しみを感じない
んだろうな。だって普通、曾祖父さんって言ったら墓の中にいる、ありがたい
御先祖様のことじゃないか?」
「一概にそうとは言い切れないが」
麻木は驚いて、口ごもる。
「長生きなんだな、年長の曾孫が三十台だとすると」
「我が家では長生き出来ることが後継者の第一条件だから。来年あたり、妖怪
に進化しそうだもん。もう百歳越えてんじゃないかって年寄りなのにさ、性格
以外は健康そのもの。ああいうの、頑強って言うんだよ。時々、ミーヤの方が
先に死ぬんじゃないかって心配になるくらいだ」
「そんな」
「あいにく爺さんの方は早死にするほど良い奴じゃないんだよね」
「世にはばかるタイプかね」
「そう」
 満足そうに真夜気は頷く。彼は意外に元気そうだ。曾祖父に腹は立てている
が、麻木にぶちまけて機嫌が回復したのか、何より、以前に比べ、ずっと目に
力強さがある。頬のやつれは否めないが、生彩はあった。もしかすると、あの
妹達の容態に変化の兆しでもあったのだろうか。
「相変わらず、ただ眠っているだけだよ。でも、別に腐り始めたわけじゃない
からな。未だ大丈夫。明日、何が起こるのかなんて、わからないだろ? 息が
ある間は奇跡の回復もあり得るからな」

 

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